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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)14632号 判決 1988年6月21日

原告 矢崎茂光

右訴訟代理人弁護士 竹澤東彦

右訴訟復代理人弁護士 中村隆

被告 共栄土地開発工業株式会社

右代表者代表取締役 栗原正清

右訴訟代理人弁護士 西坂信

同右 北原雄二

同右 杉本秀夫

同右 水谷高司

主文

一、原告の請求を棄却する。

二、訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

1. 原告が被告の八〇〇〇株の株式を有する株主であることを確認する。

2. 訴訟費用は、被告の負担とする。

二、請求の趣旨に対する答弁

主文と同趣旨

第二、当事者の主張

一、請求の原因

1. 被告は、発行済株式二万株、資本金一〇〇〇万円の株式会社である。

2. 原告は、昭和四五年二月一日当時、被告の株式八〇〇〇株(以下「本件株式」という。)を有していた。

3. 原告は、その頃、被告から本件株式につき株券(甲第一号証の一ないし四〇、以下「本件株券」という。)の発行を受けた。

4. 原告は、本件株券を所持している。

5. しかるに、被告は、原告が本件株式を有する被告の株主であることを争う。よって、原告は、被告との間で、原告が本件株式を有する被告の株主であることの確認を求める。

二、請求の原因に対する答弁

請求原因事実は、すべて認める。

三、抗弁

被告は、昭和四五年暮ころ、原告から本件株式を金四〇〇万円で買い受け、そのころ、原告から本件株式の交付を受けた(以下、この売買を「本件売買」という。)。

四、抗弁に対する認否

1. 抗弁事実は、すべて否認する。

2. 本件売買は、被告による自己株式の取得に当たるから、商法第二一〇条に違反し、無効である。

第三、証拠関係<省略>

理由

一、請求原因事実は、当事者間に争いがない。

二、次に、抗弁事実は、<証拠>により、これを認めることができる。

もっとも、原告本人は、本件売買契約を締結したことも本件株券を被告に交付したこともなく、昭和四五年の発行時から現在まで、原告において継続して本件株券を所持している旨供述する。

しかし、<証拠>によると、昭和四五年暮ころ、原告は、被告の監査役を辞任するとともに被告から金一〇〇〇万円を受領したこと、原告は、それ以来、被告の経営に関与しなくなり、また、被告の株主としての権利を行使したことも、株主である旨の主張をしたこともなかったこと、原告は、昭和五七年一一月ころ、被告の代表取締役であった訴外亡栗原清から、同じく被告の代表取締役である訴外栗原正清との間で被告の経営を巡り生じていた対立を解消するための話合いの場に仲裁者として招かれた際にも、自己が本件株式を有する被告の株主である旨の主張をせず、むしろ、全く株式を有していないことを前提として、栗原兄弟の間で被告の株式を七対三又は六対四に分けるといった協議に参加したこと、以上の事実が認められ、これらの事実を前提として、原告本人の右供述と証人本田欣一の証言及び被告代表者の供述とを対比すると、原告本人の右供述は、到底、措信することができない。

三、そこで、次に本件売買の効力につき判断するに、本件売買は、被告が自己の株式を買い受けるというものであり、かつ、商法第二一〇条各号に掲げる場合に当たらないので、同条の禁止する自己株式の取得に当たることになる。

しかし、同条は、株式会社の財産的基礎を危うくすることを防ぐことを主たる目的とする規定であるから、同条違反を理由とする無効の主張は会社側にのみ認められ、譲渡契約の履行により、その本来の契約目的を達することができる譲渡人から無効の主張をすることはできないものと解すべきである。

したがって、譲渡人である原告は、本件売買の無効を主張することができないことになる。

四、よって、原告の請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡久幸治)

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